PROFILE


『旬刊 音楽舞踊新聞』(2004年6月11日号、No.2636)
室伏鴻Ko&Edge『Experimental Body no.1 Heels』
武藤大祐 Mutou Daisuke

 昨年十二月、室伏鴻が若手ダンサー三人を迎えて立ち上げた新ユニット。メンバーの目黒大路、鈴木ユキオ、林貞之は、普段はそれぞれ舞踏やコンテンポラリー・ダンスで活躍している。


 第一作『美貌の青空』(JADE2003・ 土方メモリアル)で室伏は土方巽への批評意識を鮮やかに形象化してみせたが、今回も前作同様、まずは若手三人が巨大な真鍮板を持ち上げては引っくり返し、 その反動で自らも跳躍する荒々しい反復行為で幕を開けた。ただ一つ違うのは三人の足にハイヒールが履かされている点だ。


 室伏が一年ほど前からこだわり続けているこの真鍮板が、土方巽『肉体の叛乱』からの引用であることはいうまでもない。土方はかつてこう語った。「よく子供がお金をなめると、なめるものではないと親が叱る」が、このような子供の欲望、すなわち「金属へのメタモルフォーゼ」に向かう幼児的欲望にむしろ徹底的に忠実たろうとする時、舞踏が生まれる、と(全集I、二十四頁)。他方室伏の芸術の中心には常に「力」という主題がある。激しく歪み、捩れた筋肉が身体の内側 へ放射する過剰なエネルギーの蕩尽。しかしそこへ真鍮板が導入されるや否や、金属の硬さが筋肉に対立し抵抗し、「力」は自ずと「暴力」に転化する。

 ブオンと唸って宙にのた打つ巨大な真鍮板を、黒いパンツ一枚の男たちが掴み、床に叩きつける。あるいは逆に、いとおしむように肌を押しつけ不可能な性交を試みる。圧倒的に強大なるものを欲望し、そのことでかえって自己を相対的に貶める倒錯性の悦楽がここにはある。ハイヒールのダンサーたちは、全体重を引き受けるべき踵を去勢されたまま怒張するファロスとなる。かくして室伏は、単に金属(=力)への欲望に耽るのではなく、それの本質を意味論的に問い、解体する。力への欲望は矛盾の直中で引き裂かれ、宙吊りにされる。

  しかし、鍛え上げられた室伏の「歴史的」身体と現在の若者たちのそれが衝突し、未知の「実験的身体」を生み出すことこそ前作からの課題だとすれば、このような倒錯の美学がほとんど破綻なく成立してしまっている事実こそ問題とされねばならない。若者たちの身体はあまりに従順かつ無防備であり、室伏はそれと関係を結べずにいるように見える。このシリーズが継続されていく中で、室伏の強固な美学に真の異物が打ち込まれ、亀裂が走るのを見てみたいと思う。

(4月13日所見、神楽坂 die pratze)